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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(行ツ)5号 判決 1969年12月05日

当事者 上告人 山野紙業合資会社

右代表者清算人 島田穣

右訴訟代理人弁理士

岡本顕輔

田中武文

吉田清彦

被上告人 福田儀作

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡本顕輔、同田中武文、同吉田清彦の上告理由第一、二点について。

原審挙示の証拠によれば、その認定は是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。そして、原審認定の事情のもとにおいて、上告人名の表示を伴わない「松風」商標の表示のみによっては、商標上、看者をして「松風」商標の認識は生ぜしめたとしても、上告人の「松風」商標たるの認識は生ぜしめるに由なかったとする原審の判断は相当で、原判決には、なんら所論商標の本質を誤解した違法はない。

論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するか、または原判決を正解しないでこれに商標法(大正一〇年法律第九九号)の解釈適用の誤りがあるとするもので、論旨はすべて理由がなく、採用できない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 色川幸太郎 村上朝一)

上告代理人岡本顕輔、同田中武文、同吉田清彦の上告理由

一、上告人は、毛筆通常の書体で「文楽松風」の漢字を縦書してなる登録第五二五八五三号商標に対し、上告人が所有し、取引者および需要者の間に周知著名なる登録一三一九八九号商標(毛筆行書体で「松風」の漢字を縦書してなる)を引用してその登録無効の審判を昭和三四年六月六日請求(昭和三四年審判第二七二号)したところ、同三八年三月七日特許庁は右引用商標の周知著名性を認め「登録第五二五八五三号商標の登録は商品京花紙その他の塵紙類について無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決をなした。

この審決を不服として、被上告人は、同年四月八日東京高等裁判所に対し、右昭和三四年審判第二七二号事件につき昭和三八年三月七日特許庁がなした審決を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求める特許庁審決取消請求の訴を提起し、東京高等裁判所はこの事件に対し、同四一年一〇月二七日「昭和三四年審判第二七二号事件につき、特許庁が昭和三八年三月七日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を言渡した。

二、<省略>

三、判決はつぎの点において違法である。

第一点 <省略>

第二点 商標の本質並びに「松風」商標について、

(一) 商標は業として商品を生産し、加工し、証明し、又は譲渡するものがその商品に使用するもの(商標法第二条)で、つまり自己の生産、製造、加工、選択、証明、取扱又は販売の営業に係る商品なることを表彰するための標(旧商標法第一条、大正一〇年四月五日法律第二五号)であること論をまつまでもない。

しかしてこの標は自他商品の甄別能力がなければ商標法で謂う商標として登録できないこと(商標法第三条)また言をまつまでもない。

さすれば、商標はつぎのような機能を有している訳である。

(1)  商品識別の機能を有している訳である。

(2)  品質表示の機能をも有し、また

(3)  広告的機能をも併せ有しているのである。

かかる識別力を有しているために、上告人が有する「松風」商標が登録第一三一九八九号をもって登録されたのであって、「松風」商標それ自体で商品甄別能力は充分に持ち合せているのである。

しかるに上告人の表示がないから区別することができないという原判決は商標の本質を誤認したもので、違法なのである。

(二) 「松風」商標は前記せる如く、訴外三菱製紙株式会社が旧旧第五〇類紙其他本類に属する商品一切を指定商品として大正一〇年七月一三日登録を受け、昭和二九年二月一三日上告人がその営業と共に譲受けたもので、その間上告人が善意に昭和九年頃より商品京花紙一号に「松風」商標を継続して使用し来った事実が例え侵害であったとしてもその侵害は治癒されていると見るのが至当であり、これをもって周知著名性を除外さるべきであるとの被上告人の主張は意味ないことである。

(三) 逆に被上告人等の使用が上告人の周知著名なる「松風」商標の名声を利用して使用していたことは明らかに侵害行為であり、上告人のかかる商標を擁護するために使用禁止の警告を発し、その使用を差止めたことは取引者及び需要者に不側の損害を蒙らせることを予防する上からも当然なことであり、上告人が長年蓄積して来た信用は確たるものがあり、判決にあるような不特定多数の業者が使用していたから上告人の商品であることの区別はできなかったとの判示はその事実を全く無視したものである。

四、以上の如く、判決は全くその事実認定において真実を無視し、誤った認定を行い、また商標法の解釈を誤り、審理不尽の誹を免れず、明らかに違法であるので、破棄さるべきものであると確信する。

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